衛生管理者の勉強をすると、「法律」や「管理」や「巡視」などの知識をたくさん学びます。しかし、実際に現場で運用しようとなると、「正しいことをそのまま実行しようとする」だけでは進まない場面が多いです。
この記事では、中小企業の製造業で衛生管理者をしている私が、実際にどんな業務をやっているのか、どんな悩みがあるかをまとめています。
衛生管理者を取得したあなた、取得しようと思っているあなた。学んだ知識でどのように仕事の落とし込んでいくかの参考になれば幸いです。
※本来、安全委員会と衛生委員会は別ですが、中小企業では兼ねているケースもあります。弊社は兼ねている会社のため、安全よりの話も入っております。(このあたりも含めて実務経験談という感じです)
衛生管理者記事一覧
【第一編】取得前編(取得にいたった経緯)
【第二編】試験編(勉強方法・勉強時間・スケジュール)
【第三編】実務編(この記事)
衛生管理者は注意する人ではない
理想と現実

これよくないですよ、改善してください!

お、たしかにな!気付いてくれてありがとう、今すぐ改善しよう!
と、こんなことはありません。
まず最初に、イメージとは違うことを伝えておこうかと思います。
なんとなく、衛生管理者というと「衛生に関する専門的な知識を持っている」ということで、その専門的な知識を元に「これダメですよ」「これ是正してください」と言っているようなイメージがありませんか。
実際の現場というのは、こんなにすんなりいかないのです。(悲しみ)
この衛生管理者もどこか偉そうでよくないですね。
実際の現場の反応
実際は、

これは衛生的によくないですね…こっちに変えることできませんか

これは昔からずっとこうやってるしこのやり方の方が早いから変えられない(ちょっと不機嫌)
てな感じです。
ではどうしたらよいのでしょう。
衛生管理者はどうしたらよいのか?何をするのか?何をしているのか?というの少しずつ書いていきます。
衛生管理者としての毎月の主な仕事
弁当温度管理
衛生管理者の朝は早い。まずは、仕出しの弁当の管理からである。
何かというと、夏場はエアコンを入れる必要かあります。
菌というのは40℃を超えると急激に繁殖するため、40℃を超えないように温度管理をする必要かあります。
弊社の場合は仕出しのお弁当が食堂に直おきとなっているため、夏場はエアコンが必須です。そのため、朝一にエアコンをONにします。
衛生委員会
衛生委員会というものへの参加も必要です。衛生委員会というのは、「社員数50人以上の会社は衛生に関する会議を毎月1回以上やりなさいよ」と決まっている会合です。
これに、衛生管理者の参加が必須となっています。
これが会社に衛生管理者の有資格者が必要な1つの理由ですね。
衛生委員会のメンバーは、役員、産業医、従業員の代表、衛生管理者(私)です。
衛生委員会で何をやるかは会社によって異なるかと思いますが、弊社の場合は労働時間、労働環境、安全に関する話をしていることが多いです。
衛生委員会なのに安全についてもやるの?と思うかもしれませんが、弊社は安全委員会は設置義務の条件外です。
そのため、衛生委員会が安全委員会でおこなう内容を兼ねている形になっています。(弊社のような中小では多いのではないでしょうか)
巡視
毎週1回以上は現場の巡視が必要です。
巡視をすると、改善点だらけなのですが、一気にすべては無理なのでできていないことをチェックし、衛生委員会に持っていき、出来るところから対策をしていくという流れです。
実際にやった改善
第一種衛生管理者を取得したのが1年前のため、実働は1年ほどです。
1年間で改善した内容はこんな感じです。
このように、安全に関することもかなり多いです!(中小ならではかも)
いくつかの改善内容を具体的に記載してみます。
お弁当温度管理
先ほども書きましたが、夏場のお弁当管理としてエアコンをいれます。
これで衛生管理者としての仕事なんて大げさ…と思うかもしれませんがとても大事です。
食中毒菌というのは30℃~40℃で爆発的に増えます!(こういう知識を調べて勉強しておくのも衛生管理者の仕事のうちかと思います。)
夏場にエアコンをつけ忘れると、30℃なんてすぐ超えてしまいます。
そのため、これはとても大事な衛生管理者のお仕事となっています。
一般の方:「最近暑くなってきたな。暑いところに食べ物置いているのはなんとなくよくないからエアコンをつけておこう。」
衛生管理者:「今日は最高気温が25℃だから、日のあたり具合によっては室温が30℃を超えるかもしれない。エアコンをつけよう」
このような感じで具体的で理論的な判断ができます。
今までは、なんとなくでエアコンが入ってたり入ってなかったりしました。
そのため、衛生管理者としてその日の気温と室温から判断してキチンと管理するようにしました。
これは専門家としての知見があってできることだと思います。(大げさ説)
社内Webサイト
衛生に関する連絡を社員にするのも衛生管理者のお仕事です。
どういうことかというと、「衛生委員会」というのを50人以上の会社では毎月行う必要があるのですが、この「衛生委員会」の内容を展開しています。
元々、事務方のフォルダの奥の方に「衛生委員会」の議事録と資料があり、「こんなところに置いていて誰が読むんだ…」と思ったのでどうにかしなければと。
そこで、社内Webサイトとして衛生関連のページを作成して社内に共有しました。
そのサイトに毎月の「衛生委員会」の議事内容や、そこで使用された資料などを載せて展開しています。
「衛生委員会の開催後は遅滞なく、議事概要を労働者に周知する必要がある」と省令で定められています。(衛生管理者のみなさん、勉強しましたね)
そのため、気軽に見やすい場所にまとめてみたという感じです。
ヒヤリハット
ヒヤリハットの集計を始めてみました。
以前からヒヤリハットという言葉自体はあったのですが、製造の作業者に直接「何かなかったか?」という形で運用されていました。
そのため、例えば「階段でぶつかりそうになった」や「通路でつまづいた」などの作業以外での意見が出にくいということがありました。
加えて、人によっては直接は言いづらいのではないかと(私は少し苦手です)
なので「匿名でも可」というヒヤリハットの用紙を作成しました。(無料のAIに手伝ってもらいました)
→ AIを使ってギリギリ使えるヒヤリハットの用紙を作った話作成中
ヒヤリハットというのは、ざっくりとした目的は「小さな事故の数を把握して対策して大きな事故を防ごう」というものです(ハインリッヒの法則だったかな)
そのため、「日付や名前は不要なのでは」と思い、発生した事象に対してのみ集計してコストが低いものから対策していくことにしました。
もしかしたら運用していくうちに、「やっぱり日付と名前があったほうがよい」となる可能性もありますが、現状はこんな感じで運用しています。
表示
これは、ぶつかりそうなところに注意喚起のシールを貼ったりしています。
曲がり角や走ってはいけないところに設置しています。
学校の「廊下は走らないように」や、駅などにある「左側通行の矢印」のイメージです。
コストと工数が低く効果が高いのでオススメの対策です。
衛生委員会をマンネリ化させないための工夫
日常でおこる出来事を見ておくとよいです。
弊社の場合は製造業のため、現場で小さな物損やちょっとした倒壊が起こります。
そのようなことが起こったと聞きつければ、関係者にどうしてそうなったか?を聞きます。
その内容をメモして、衛生委員会にて「こういうことが発生しました。考えられる原因はこれです」ということを発表し、衛生委員会のメンバーで対策を検討します。
あと、社内でヒヤリハットの紙と回収ボックスを作り、1カ月に1回中身を改めているので、このヒヤリハットに書かれた内容について話をすることも多いです。
他には、インフルエンザやコロナなどで休んでいる人が何人かいると、「どういう予防をするとよいか?」ということを衛生委員会で産業医さんにアドバイスをもらったりします。
会社の規模や仕事をする環境や社風によって対策は異なってくるかと思いますので、産業医さんに聞くと自社の状況にあったネットとはまた違う対策の仕方などを教えてくれます。
職場巡視の現実
全部は無理(本当に)
「これがいつもたてかけられてて危ない」「歩行帯に物が置いている」「ここがすべりやすい」
こんなことをチェックしています(もはや安全担当)
ただ、業務は他にもあるため全ての箇所のチェックはできません。(まともにやって是正までしていると半日じゃすまない)
そのため、週によって巡視するエリアを決めています。
・1週目は1階
・2週目は2階
・3週目は3階
・4週目は事務質や食堂
のような感じです。
では、例えば「1階の歩行帯に物が置いている」とします。
これは是正します(どかす)
「2階のここがすべりやすい」
これも是正します(拭く)
「これがいつもたてかけられてて危ない」
これは是正ができません。
というのも、無意味にたてかけられてて危ないのであればどかします。
しかし、業務手順に組み込まれており、社内での置き場所も「その場所」となっているもの、今すぐどかすことはできないのです(大きい会社ならすぐどかすような指示がもらえるのかもしれないですが)
安全第一なのは間違いないのですが、衛生管理者の権限ではそこまでできません。
そのため、このような場合は「危ないので気を付けながら作業をしてほしい」と伝え、この内容を衛生委員会に持っていき、是正を検討してもらいます。
つまり、衛生管理者が「注意して変えてもらう」や「自ら是正する」ということは難しいのです。
なので、衛生や安全に関することで「是正すべき」と感じたことを、「社内で改善できるように行動する」という立ち回りが必要です。(これが難しい)
衛生管理者取得 → 現場は危ないことだらけ → これもこれもこれもダメです今すぐ是正しましょう
とは実際には難しいです。
どこかしらから反発をいただきます(上層部または現場が多いかも)
理想はこうあるべきなのは間違いないのですが、理想通り進むパターンはまれかと思います。
そのため、衛生委員会などの上層部がいる場に状況を整理して持っていく必要があります。
コストと工数と重大度
「是正が必要だ」と感じた場合、その是正をする際のコストと工数と重大度感覚も大事です。
コスト・工数・重大度を考えず、「ダメです」や「改善が必要です」と言うだけでは夢物語を言っているように聞こえるでしょう。(経営層はこのあたりがないと動かない)
しかし、その環境で仕事をすると危険なのは間違いなしです。
そのため、なるべく早く是正されるような行動をしていきます。
衛生管理者取得 → 現場は危ないことだらけ → これもこれもこれもダメです → ダメなとこのコスト・工数と重大度を考える → 全て一気に是正は難しいので、コストも工数もかからないが効果の高いこの対策からやりましょう!
というような感じで持っていきます。
このようにしないと会社も動くための材料がないです。
衛生管理者に必要なのはバランス感覚
理想論だけでは動かない
先ほども書きましたが、理想論や机上論で「これはダメ」「これは是正して」と言うだけでは誰も動きません。(仕事ってこういうとこありますよね)
衛生管理者というのは社内の環境を改善・維持するのが仕事です。
なので、せっかく勉強して取得した「衛生管理者」という専門家の知見をいかし、「実現可能な形」に持っていきましょう。
実現可能な形へ変換する
何がダメで何がよいか?その重要度は?これは法律で決まっている?これは努力義務?
このようなことは、試験勉強でたくさん勉強したかと思います。
衛生管理者じゃない人でも、コスト・工数・重要度のバランスで考えることはできます。
しかし、衛生管理者であればこの重要度についての明度がより高いです!
そのため、現実的なバランスを見つけることも難しくないでしょう。
これが我々のお仕事です!(つまりバランス感覚が大事)
衛生管理者とは注意する人ではなく、「会社が動ける形に変換する人」です。
実務をやってみて思う資格の知識と現場のギャップ
衛生管理者の勉強をすると、「結構決まりややらないといけないことが多いんだな…」と思います。
例えば、
・週に1回の職場巡視
・衛生委員会の参加
・健康診断に関わること
とはいっても、これらの業務をすべて完璧にはできません。
特に私のような中小企業勤めの方は、本業と兼任であることが多いのではないでしょうか。
そうすると、例えば毎週1回の職場の巡視で製造現場の端から端までみることは困難です。
端から端までみて問題点のある場所をピックアップして問題ないように対策して…というのは現実的ではありません。
もちろん、衛生面や安全面を考えると対策しないといけないのは間違いないです。
しかし、コストもしくは時間をかけないと改善しないことが多いのも事実です。
仮に、衛生管理者が会社の役員も兼任しているということであれば、すぐにでも予算を立てて改善〜ということもできるかと思います。
しかし、そうではない限り衛生管理者単独で大きな改善は難しいのです。
中小企業では、現場が全く衛生や安全に関する意識がなく協力的でないことも多いです(弊社は割とそうです)
これは衛生面や安全面から改善してほしいと伝えても、「作業効率が落ちるから〜」「昔からずっとやっていて大丈夫だから〜」というので受け入れられてもらえないことが多いです。
そのため、上手にやり取りして、「少しずつよい方向に変えていく!」というのが衛生管理者の一番大事な仕事かもしれません…
学んだことを学んだままぶつけても、会社は動きません。そのため、動いてもらえるように落とし込む必要があります。
まとめ
衛生管理者とは何か
「実際に改善に動く」ようなイメージがあるかもしれませんが、「改善できるように事務仕事」をすることの方が多いです。
衛生委員会の内容を展開したり、改善のコストや工数や重大度を判断したり、ヒヤリハットの用紙を作ったりと。
実際に改善に動こうとなると、お金もかかりますし社内のたくさんの人の作業に影響が出てしまいます。(製造業なら納期にも関わる)
そのため、この舵をきるのは事業主(いわゆる経営層)でなければ難しいです。
事業主に対して、「こういうことが懸念される」「法律・省令ではこの対応は必須」「これは危険度が高いので今すぐ改善すべき」「すぐにではないが将来的には改善した方が良い」という風に、整理して渡してあげることが主な仕事かと思います。
改善できる形にする仕事
「今すぐ問題点を全て是正しないと仕事が出来ない」となると、会社自体が倒れてしまいます。(仕事が出来ない)
しかし、事象を放置するわけではなく1つ1つ問題点を洗って、材料を元に対処する順番を決める。
その根拠を事業主が納得しやすい、または動きやすい形にして渡してあげる。
これが改善にはとても大事だと思います。
「法律を覚える」だけではなく、「会社が動ける形に変換する」
これができて初めて、衛生管理者としての実務となるのだと思います。
理想通り進まないことも多いのですが、その中でも現実的な方向で改善していく。
それが中小企業で衛生管理者をやっていて感じる一番大事な部分です。
衛生管理者の資格を持っている、または取得を考えている方は、ぜひ実務にもチャレンジしてみてください。(大変だけど意外と楽しいです)
取得前編はこちら
→ 中小企業で第一種衛生管理者を取得することになった話【取得前編】


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